東京高等裁判所 昭和28年(う)2723号 判決
被告人 宋世鐘
〔抄 録〕
論旨第二、について。
公務員が一応その権限内に属する適法な行為をしたものと認められる限り刑法第九十五条第一項にいわゆる公務員の職務執行ということができるのであるが、公務員が所論のように職務執行の名の下に故意に職権濫用をしたような場合にはもとより同条同項にいわゆる職務の執行と認められないこと、もちろんである。しこうして原判決の引用する原審証人入江実の原審公判廷における供述、現行犯人逮捕手続書謄本(原判決に現行犯人逮捕手続書とあるのは、現行犯人逮捕手続書謄本の誤記と認める)によると、淀橋警察署巡査佐々木石太郎、同関根全、同関浪捷は昭和二十七年五月一日午後六時頃同日メーデーに参加したデモ隊が皇居前広場において警察官との間に乱闘となり相当の負傷者を出した事件につきこれに参加したものと思われる負傷者を騒擾罪により検挙するよう命令を受け、新宿駅南口構内において警戒中十二、三名の学生風の男が全員頭に新しい繃帯をして省線七、八ホームから南口構内階段を登つて来たので、よく見ると血痕が附着し生々しい格闘の跡が見えるので騒擾罪現行犯人と認め職務質問をするとその男等は逃げ出したが、佐々木巡査等はそのうち一名を取り捕えると、何人ですか売国野郎と怒鳴り大衆に向つて皆さんこれを見て下さいよと大声を立てながら抵抗して来たので格闘となり、その一名を逮捕して同人を同署に押送するため折柄同所附近を警羅中の同署巡査入江実外一の巡査に同人を引渡し、同巡査等は同人を同署に押送すべく同駅南口を出て同駅南口警備巡査派出所西側附近まで連行したことを認めることができるのであるから、右佐々木巡査等の逮捕並に入江巡査等の押送は一応同巡査等の権限に属する適法な行為と認められるのであつて、右氏名不詳の被疑者の逮捕並に押送が所論のように同巡査等の故意になした職権濫用と認めるべき証拠は記録上存しないのである。しからば被告人の原判示所為を公務執行妨害罪に問擬している原判決は正当であり、原判決には所論のような擬律錯誤の違法はないから論旨は理由がない。